豊橋技術科学大学の研究室で教えられたこと

豊橋技術科学大学の研究室で教えられたこと その1

「トラブルがあったら、装置を止めて徹底的に原因を調査しなさい。原因がわからないうちは絶対に装置を動かしてはならない。そんなことをしたら、同じ事故が同じ原因で再び起こるから。原因を突き止め、問題に対処してから、装置は動かしなさい。」

工学、技術、科学、テクノロジーとかサイエンスといった分野では、実験によって真理をあぶり出し、実験によって研究を進める。実験によって再現性が得られるデータを出す。再現性とは、誰が実験を行っても同じ条件のもとに実験を再現でき、同じデータを得る事ができることを意味する。実に再現性によって、技術や科学は成り立っている。エンジニア(技術者)の卵として、訓練のために高価な実験装置のメンテナンス(維持・管理)を任される際、上記の言葉は耳にタコができるほど教えられた。
原子力発電所の再稼働においても、信頼と安全の回復のために、まさに上記の教えが妥協なく適用されなければならないと私は考える。安全や信頼も再現性の上に成り立つのだから。

東日本大震災が起こってからちょうど4ヶ月

東日本大震災が起こってから、ちょうど4ヶ月が経った。

今日持たれた教師会の中で、既存のキリスト教会が牧師を招聘する際に、「即戦力」を求める傾向が強くなっているということが話題の中で語られた。

「即戦力」、つまり訓練や準備をしなくてもすぐに使える戦力。実はこの言葉こそ、3月11日に起こった東日本大震災が明らかにした、この国の問題の本質を、見事に言い当てた言葉ではないかと私は思う。

学校の教職員、会社の社員、国会の議員、病院の医師や看護士、福祉施設の介護士、そしてキリスト教会の教職者。

いかなる職業においても、即戦力を第一とした人材育成が行われる時、互いの未熟さの故に、必要以上の失敗、ミス、トラブルが多発し、大きな人災に至る。

しかし熟練した働き人であるならだれでも、数えきれないほど多くの失敗を犯し、多くの方々に多大な迷惑をかけ、多くの方々に本当にお世話になり、長い時間をかけてじっくりと育てられてきたはずだ。

かつてお山の大将であった荒削りの岩は、大河の流れの中で、ゆったりとした時間の中で、上流から中流、中流から下流へと下り、そして丸いきれいな石に変えられるのだ。

あなたもそのようにして育てられたからこそ今のあなたがあるはず。

これ以上、必要以上の被害者を出さないために、「即戦力」という言葉の持つ魅力にだまされないでほしい。

そしてあなたが受けてきたそのように、忍耐と寛容と親切をもって、後輩を、次世代の人材を、決して見捨てずに、すぐに見切らずに、暖かく育てることに携わっていだきたい。