三浦綾子さんの小説、「塩狩峠」の中で紹介される遺書と遺言

三浦綾子さんの小説、「塩狩峠」の中で紹介される遺書と遺言

主人公の父、永野貞行の遺書と遺言

「人間はいつ死ぬものか自分の死期を予知することはできない。ここにあらためて言い残すほどのことはわたしにはない。わたしの意志はすべて菊が承知している。日常の生活において、菊に言ったこと、信夫、待子に言ったこと、そして父が為したこと、すべてこれ遺言と思ってもらいたい。わたしは、そのようなつもりで、日々を生きて来たつもりである。とは言え、わたしの死に会って心乱れている時には、この書も何かの力になることと思う。

一、信夫は永野家の長男として母に孝養を尽し、妹を導き、よき家庭の柱となって欲しい。

一、ただし、立身出世を父は決して望んではいない。人間としての生き方は、母に学ぶがよい。

一、信夫は、特に人間として生まれたということを、大事に心に受け止めて、真の人間になるために、格別の努力を為されたい。

一、わたしは菊の夫とし、信夫、待子の父として幸福な一生であった。それはすべて神が与えたもうたからである。

一、父の死によって経済的に困窮することがあるとしても、驚きあわてないこと。必要なものは必ず神が与えたもう。

一、わたしの葬儀は、キリスト教式で行われたい。

以上、このごろ時々疲れを甚だしく覚えるので、万一の為に記して置く。

貞行

一月十四日

菊殿

信夫殿

待子殿」

自分の日常がすなわち遺言であるような、そんなたしかな生き方。

常に死を覚悟して生きて来た姿。

聖書の中に記されたJesusのリビング・ウイル

あなたがたに新しい戒めを与えましょう。あなたがたは互いに愛し合いなさい。わたしがあなたがたを愛したように、そのように、あなたがたも互いに愛し合いなさい。もしあなたがたの互いの間に愛があるなら、それによって、あなたがたがわたしの弟子であることを、すべての人が認めるのです。」…ヨハネ13:34-35