日本キリスト教協議会(NCCJ)から
ブッシュ大統領と小泉総理にだされた声明


米国大統領 ジョージ・ブッシュ様

武力によらない平和を強く求める!

 11日、米国の人々が襲われた突然の殺戮行為とその惨劇に対して 平和を願う 世界中の人々は、私たちとともに大きな衝撃を受け、深い悲しみと慄きのうちに、哀悼の祈りを共にしていると考えます。日本キリスト教協議会(NCCJ) につながる私たちも、犠牲者の方々を深く悼み、また、瓦礫の下で生き延びてい る人々の一刻も早い救出と手当てを受けている方々の癒しを、心から祈るものです。

 この日、米国ニューヨークの世界貿易センタービルとワシントンの国防総省という、米国経済と軍事戦略の中心といえる建物に、何者かにハイジャックされた 3機の旅客機・航空機が相次いで激突し、炎上しました。またピッツバーグ付近でも航空機が墜落し、「同時多発テロ」として世界中を震撼させ、暴力と「テロ」に対する憤りを巻き起こしています。

 4機の乗客乗員をはじめ、このビル内で働く人々、救助に当たった人々など、 実に何千人もの死傷者・被害者は、ごく普通の一日を初めたばかりでした。巨大 な軍事力のすき間を縫うような形で、ハイジャックした飛行機でビルに突撃する という暴挙は、ミサイルによる攻撃同様、どのようなことがあっても許されてはなりません。このような犯罪行為は、国際的な、完全に法的、理性的、平和的方法で処罰されるべきです。 米国が「自由と民主主義」に対する攻撃に対して、断固とした闘いを宣言されるとき、私たちは、その闘いが、軍事的報復によらない完全に平和的手段によるも のであり、そのことによって、米国の正義と平和への決断における倫理的優位を、国際社会に対して明らかに示すものであることを、心から希うものです。

 「報復」は、敵意と軍拡の相乗作用を増幅させるだけで、平和を危うくし、人々を恐怖と不安に陥れるだけです。いかなる科学的先進的技術による防衛も、敵意 のあみ出す巧妙な攻撃を封じることはできないでしょう。軍拡競争への道を遮断 し、和解と平和への道を模索する他、人類が生き延びる道はありません。米国がこれまで地域対立への調停の役割に惜しみない努力を傾注してこられたのも、市民生活を大切にする自由と民主主義の精神を固持したいと考えられたからでした。世界中のどの国も、経済的な状態や社会的な状況に関わらず、軍隊でない市 民がミサイルや「テロ」攻撃にさらされることはそれ自体不正義であり、決して許されることではありません。

 日米安保条約の下、他国への攻撃の基点とされ、さらなる基地強化がなされよ うとしている沖縄など多くの基地を抱える日本にとって、今回の攻撃はけっして 他人事ではありません。軍事「報復」をもたらす危険な基地の撤去を求めます。

 今こそ、滅びに到る「報復」のワナにおちいることなく、米国の正義と自由、民主主義を、全世界に明らかにすることにより、真の平和への道を指し示されることを強く希望するものです。

2001年9月12日

日本キリスト教協議会 総幹事   大津健一

平和・核問題委員会委員長    小笠原公子


総理大臣 小泉純一郎様

米国で起きた「同時多発テロ」に関する日本政府への申し入れ書

 11日、米国で起きた「同時多発テロ」として報道されているこの国際的無差別 暴虐行為は、世界中を震撼させました。いかなる国、またいかなる信条の下で行なわれたとしても、かけがえのない人の生命と生活を破壊するテロ攻撃やミサイ ル攻撃は、犯罪行為以外の何ものでもなく、それを認めるわけにはいきません。
 私たちは、犠牲者の方々を深く哀悼し、瓦礫の下に助けを求めている人たちの 一刻も早い救出と、傷ついた人たちの心身の癒しを、心から祈ります。

 このような暴挙が誰によって、なぜ行われたのか、何をねらいとしているのか など、真実は一日も早く究明され、その責任者は断罪されなければなりません。 しかしこれは軍事的報復攻撃によってではなく、あくまで国際的な機関による、完全に法的、理性的、平和的方法でなされるべきです。
 NATOは、同条約第5条に規定された集団的防衛権を発動する方向にあるようで すし、ブッシュ大統領は、この「同時多発テロ」を「戦争行為」と非難したとい うことです。小泉首相は、米国への強い支持と協力を宣言し、自民党は、有事法制化の動きを早め、次期臨時国会での自衛隊法の改定を検討していると報道されています。また、政府の「安全保障会議」において、「国際緊急援助隊の派遣」、「状況に応じ、随時必要な措置をとる」と言われました。さらに、米国政府の報復を支持すると明言しました。これに先立っての日米外相会談で、田中外相は、米国に対して「軍事面でも武力行使の一本化の検討をすすめる」という意志を伝えられたとのことです。

 「テロ」に対するたたかいには、武力報復しかないと、米国政府をはじめ西欧諸 国も日本政府もこぞって、声高に主張しているように思えます。小泉首相は、米 国とともに日本が報復戦争を遂行するために国内法を変更し、または拡大解釈を行おうとしているようにさえ思えます。
 首相にとって最も大切な相手は、日本の民衆ではありませんか。冷静に見れば、沖縄をはじめ、在日米軍基地は、外国による「テロ攻撃」の危険にさらされ ているといいますが、より危険にさらされているのは地域住民です。そして、こ の国土には、非戦を誓った日本国憲法があるのです。首相は、今こそ、日本国憲法の前文と、特に第9条の精神を遵守することを確約すべきです。「有事法制の 整備を急ぐ」などということは、平和的解決への道とは全く方向性が逆です。

 テロ攻撃の映像を見て、日本で一番衝撃をうけているのは、かつて本土防衛の盾とされ、焦土とされた沖縄の人々でしょう。今また、沖縄が、もしこのような攻撃にさらされることがあれば、取り返しがつきません。米国の報復攻撃を、 「当然だ」と言われる首相は、基地のおかれた地域の人々、特に沖縄への責任を認識されているのでしょうか。基地は、軍事的脅威と報復のための装置であり、平和の装置にはなりえません。基地は撤去されるべきです。そして、国際間の緊 張は、あくまで、軍事的報復によらない完全に平和的手段によって緩和され、和解がはかられるべきです。「報復」は、敵意と軍拡の相乗作用を増幅させるだけで、平和を脅かし、人々を恐怖と不安に陥れるだけだからです。

 今回の攻撃で、ミサイル防衛、宇宙防衛構想など、いかなる科学的先進的技術 による防衛も、敵意のあみ出す巧妙な攻撃を完全に封じることはできないことが わかりました。軍拡競争への道を遮断し、和解と平和への道を模索する他、人類が生き延びる道はありません。日本が米国と真に協力していくことを望むとすれば、平和憲法前文の思想を共有するという原点に立って、対話を模索するべきでしょう。滅びに到る「報復」のワナにおちいってはなりません。

 数千人にも及ぶといわれる直接の犠牲者とその家族の方々に、限りない哀悼を捧げます。瓦礫の下の人々の一刻も早い救出と手当てを、また、精神的にも深い傷を受けた人々への十分なケアがなされるように願います。日本にいて、現場に かけつけることもできず、悲嘆と心労に打ちひしがれている犠牲者や行方不明の方の家族に、政府はもっとも必要な情報とサポートを提供してください。同時 に、このような残虐で悲惨な行為が二度と引き起こされることのないよう、いかなる暴力も許さない 世界に向けた平和構築の努力を、平和憲法をもつ日本のイニシァティブをもって行ってくださることを強く求めます。

2001年9月13日

日本キリスト教協議会 総幹事        大津健一

平和・核問題委員会委員長        小笠原公子